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「ローカルナレッジ/新しい教養のフレームワーク」とは何か
local knowledge as a New Cultural Framework

スタイル株式会社では、2020年5月から通信の専門メディア「WirelessWireNews」内でオンライントークイベント「新教養主義宣言」を実施してきました が、今回名称を「ローカルナレッジ/新しい教養のフレームワーク」に変更すると同時に、独立サイトとしてスピンオフし再スタートします。

「ローカルナレッジ」は、米国の文化人類学者クリフォード・ギアツ(Clifford Geertz)の1983年の著書『local knowledge: Further Essays in Interpretive Anthropology,』(邦題:『ローカル・ノレッジ――解釈人類学論集』クリフォード・ギアツ著 , 梶原景昭(他3名)訳、岩波書店1991年)における彼自身による造語です。一般的あるいは普遍的な「知」に対して、ローカルナレッジは、局所に偏在し、現場の状況からは分離しにくい知識あるいは言語化しにくい身体知のようなものを指します。ギアツは、これがその地域での掟(おきて)あるいは法のようなものにつながっていくことを示唆しています。

ローカルナレッジは専門知(=特定分野でのみ有効な深い知識・知恵)の対立概念ではありませんが、また同時にローカルナレッジは専門知だというわけでもありません。このあたりの議論を深掘りしていくと少しややこしいことになるので、それはまた別の機会に譲るとして、当サイト「ローカルナレッジ/新しい教養のフレームワーク」では、もっと素朴に「知恵が様々な場所に偏在している様子」とだけ捉えておくことにします。人口は東京に一極集中しているようですが、知恵は全国各地にあまねく偏在しているでしょ?ということです(なお、「ノレッジ」というカタカナ表記は日本国内では一般的とは思えないので、当サイトでは「ナレッジ」という親しみやすい言葉に変えました)。

さて、「新教養主義宣言」は、私たちが日常会話で何気なく利用したり、あるいはメディアが多用する“教養(あるいはリベラルアーツ)”という言葉に対する違和感からスタートしましたが、ご出演いただいた多くの方々のご協力により判ってきたのは、教養が「豪速球を投げる投手の技術ではなく、それを受け止める、清濁併せ吞む捕手の態度に近い」ということです。教養は「本をたくさん読んだので教養が身についた」と勘違いしている博覧強記から投げ込まれた暴投をさりげなく受け止め、優しく返球する(あるいはすぐに返球せず自分の手のひらでずっとボールを転がし続ける)態度のこと、のような気がするのです。

これは理論とフレームワークの違いによく似ているので、ここでは「仏教」と「禅」をアナロジーとして引っ張り出してみることにします。いうまでもなく仏教はお釈迦様が作った教え(理論)ですが、「なんでこんな理論を作ることができたんだ?どうやればこんな悟りが開けるの?」という素朴な疑問を抱いた(当時の)唐の僧侶たちが「ひょっとしたらこういう方法かも」ということで座禅、そして公案という方法論を開発しました。これが「禅」であると考えてください。仏教は理論ですが、禅はフレームワークなのです。

フレームワークは真理を発見するための道具のようなもので、それ自身は真偽の対象ではありません。一つのフレームワークだけで妙な成功体験があると、フレームワーク=理論、と誤解しやすいのですが、実際にはたくさんのフレームワークを自分の手のひらで転がし続け、状況に応じて少しだけ使う、という態度こそが教養的かな、と思います。

これがこのサイトを「ローカルナレッジ/新しい教養のフレームワーク」と命名した理由です。ローカルナレッジは複数のテーマサイトで構成されています。それぞれに微妙に目的が異なりますが、新しいフレームワークを構築していくプロセスを通じて、今までにない価値を創造していこう、という意味では全て共通しています。

「ローカルナレッジ/新しい教養のフレームワーク」への皆さんのご参加をお待ちしております。

ORGANISER

島薗 進(しまぞの・すすむ)
島薗 進

1948年東京都生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授。上智大学グリーフケア研究所所長を経て、大正大学教授。おもな研究領域は、近代日本宗教史、宗教理論、死生学。
『宗教学の名著30』(筑摩書房)、『宗教ってなんだろう?』(平凡社)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日選書)、『日本仏教の社会倫理』(岩波書店)など著書多数。

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