宗教学者・島薗進氏のオンライン私塾は、今年3月から「新たなケアの文化とスピリチュアリティ」と題する第2シリーズを開始しています。
第4回は「地域社会のケア文化と仏教/スピリチュアリティ」をテーマに、長野県松本市の薬王山東昌寺住職で、ケア集団ハートビート代表である飯島惠道さんをお迎えします。
メインスピーカーである島薗進氏の今回の講義に対するコメントです。
「地方都市も含め、地域社会には大都会ではなかなか見られないケア文化の継承がなされている例が少なくない。仏教寺院や仏教者と住民の間で、ケアの文化の新たな展開が進められている例が全国各地に見られる。死や死別に向き合う際、宗教者の助けが必要だという感覚も、大都市よりは地方都市や人口が集中していない地域の方が色濃く伝えられてきたと考えられる。
2011年3月の東日本大震災では、津波の他、地震の被害や原発事故の被害もあり、2万人もの方々が亡くなった。この際、伝統仏教の僧侶らの支援活動が活発に行われ、大いに注目された。被災地には観音様やお地蔵様の碑が建てられた例が少なくない。仙台市や名取市で在宅での死の看取りの医療を展開していた岡部健医師は、かねてから死の看取りや死後のグリーフケアにおいて、宗教者が果たすべき役割が大きいと考え、医療やケアに携わる人々と宗教者の協働の可能性について模索していたが、東日本大震災を機会にそれをさらに具体化すべく、日本型チャプレンとして臨床宗教師を構想するに至った。
岡部医師は2012年にがんで世を去ったが、医療やケアに携わる人々と宗教者の協働の可能性については各地で新たな試みが進められている。今回は、こうした試みの一例として看護師としての経験もある尼僧の飯島惠道さんをお招きして、地域社会のケア文化と仏教/スピリチュアリティについて考えていきたい。第2回、第3回は「現代日本の仏教とスピリチュアリティ」を高齢者ケアの観点から考えてきたが、第4回は女性の役割という観点から考え直していくことにもなる」。
ゲストの飯島惠道さんからも以下のコメントをいただきました。
「まず、若松英輔さんの言葉を紹介いたします。「悲しみは理解されることではなく、あたためることを待っている」「悲しさは共に悲しむ者があるとき、ぬくもりを覚える」と。現在私は長野県松本市に住んでおりますが、そこが「死別の悲しみにあたたかい場所・地域」になることを願いつつ、グリーフケアに取り組んでおります。
ケア集団ハートビートの活動をはじめたのは2005年。病院勤務を辞し、2000年に東昌寺に戻りましたが、日頃の寺の法務を通じて、社会内でのケア、ことに遺族に対するケアが十分ではないことを感じておりました。これは、私の寺がある地域だけの問題ではなく、おそらくどこの地域にも起こっていることだと思うのですが、専門家が行う専門的なケアは割とすんなり地域ケアのシステムの一環として位置づくことは多いものの、専門的なケアが行き届かない部分のケアは、往々にして置き去りにされている、そんな風に感じました。その一つがグリーフケアであると考えます。
グリーフケアは深い悲しみを抱いている方への寄り添いでありますが、「その人が深い悲しみを抱いているかどうか」ということを把握するのはとても難しいことです。ご存じの通り、診察、診断という経緯を経てグリーフケアの提供の必要性が判断されるわけではありません。深い悲しみを抱いている場合、その人に対して寄り添いがあることにより、悲しみは軽くなり、次なる一歩を踏み出すことができるようになることを、私たちは経験則として知っています。グリーフケアの提供のためには、「悲しみを抱えている」と自ら発信しなければ、その関わりや寄り添いは始まりません。私たちケア集団ハートビートは、ケアのはじまりをどうしたらよいか、長年考え、実践し、考察を重ね、今に至っております。
深い悲しみを抱えた方に対して寄り添い、実践による体験知を積み重ねること、おのずとそこに新しいケアの文化が生まれてゆく、それが私たちケア集団ハートビートの歩み方なのだと考えております。
本当に少しずつの実践でありますが、ケア集団ハートビートの紹介をしつつ、グリーフケアについて、「死別の悲しみ、語って、泣いて、あたためて」ということをお話しできたらと考えております」。
聞き手は、前シリーズ「死にゆく人と愛の関係を再構築する技術」に続き、医療・科学ライターの小島あゆみ氏が担当。医療現場を取材するなかで培った知見を基にグリーフケアを学ぶお手伝いをします。
初めて参加される方にも有意義な内容にしますので、奮ってご参加ください。
お申込みいただいた方が当日お時間に都合がつかなくなった場合には、動画アーカイブでオンデマンド視聴が可能です。(動画配信開始後1週間ご提供いたします)。
19:00 島薗氏によるトーク 19:40 飯島氏によるトーク 20:30 休憩 20:40 ダイアログ/質疑応答 ※プログラムの内容・順番・時間などは予告なく変更となる可能性がありますのでご了承ください。
Zoomミーティングを利用したオンラインイベントです。 お申込みいただいた方には、前日までに参加URLをメールにてお送りします。
チケットの購入期限は当日8月26日の18:00までとさせていただきます。
local knowledge 編集部(スタイル株式会社)
信州大学医療技術短期大学部看護学科を卒業後、出家得度。愛知専門尼僧堂で修行。駒澤大学、同大学院修士課程修了。諏訪中央病院で内科病棟、訪問看護、緩和ケア病棟に看護師として勤務。2000年3月東昌寺に戻り、僧侶としての生活を再開。法務の傍ら、信州大学大学院経済社会政策科学研究科修士課程地域社会イニシアティブコースにて「死別悲嘆者のケアの考察~第三人称親密圏からの寄り添い~」を執筆。現在は、住職として活動する傍ら、教誨師、松本十二薬師をめぐる会代表をつとめ、さらに、ケア集団ハートビート(任意市民団体)を組織し、生老病死のトータルケアに関する勉強会(不定期)や、死別悲嘆の分かち合いの会を開催している。
1948年東京都生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授。上智大学グリーフケア研究所所長を経て、大正大学教授。おもな研究領域は、近代日本宗教史、宗教理論、死生学。
『宗教学の名著30』(筑摩書房)、『宗教ってなんだろう?』(平凡社)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日選書)、『日本仏教の社会倫理』(岩波書店)など著書多数。
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