宗教学者・島薗進氏のオンライン私塾の第2シリーズ「新たなケアの文化とスピリチュアリティ」、第5回は「コンパッション都市に向けて」をテーマに、静岡大学未来社会デザイン機構副機構長、農学部・創造科学技術大学院教授で、死生学カフェや哲学対話塾を主宰する竹之内裕文さんをお迎えします。
メインスピーカーである島薗進氏の今回の講義に対するコメントです。
アラン・ケレハーの『コンパッション都市』という本の翻訳が出た。この本は地域社会に新たなケアの文化を育て、豊かなスピリチュアリティに根ざした生活空間を作り出していこうとするものだ。死生学やスピリチュアルケア、グリーフケアというと、1対1の、あるいは小人数の相互交流をイメージするが、それは新たなケアの場と文化であり、社会的な事柄でもある。ケレハーは早くからこのような考え方に立って、「コンパッション都市」という考え方を提起してきた死生学者であり、社会学者である。
こうした構想はケレハーだけのものではない。1986年にWHO(世界保健機関)によってオタワ憲章が作られた。オタワ憲章では、健康とは病気をしていない等の身体的な意味だけではなく、社会的にも問題がないことをも意味する。また、オタワ憲章は健康の条件として、平和、住居、教育、収入、安定した環境、持続可能な資源、社会的公正と公平等の8つを挙げている。この考え方にそって「健康都市」が目的とされ、世界各地で健康都市宣言を掲げる都市が増えている。だが、この考え方を少し広げていくと、死をめぐる新たなケアの文化、そしてスピリチュアルな次元を含んだ「コンパッション都市」の構想へも展開する。
実際、日本でもそのような生活空間を目指す活動が各地で広がりつつある。『コンパッション都市』の訳者であり、死生学カフェの実践者でもある竹之内裕文さんはこのような方向性をもって、新たなケアの文化の実践と研究に取り組んで来られた活力あふれる哲学者だ。竹之内さんは東日本大震災後に仙台で臨床宗教師養成を提唱し、その後、自らがんで亡くなっていった在宅医、岡部健医師とともに、タナトロジー(死生学)研究会を行なってきた人物でもある。
今回のセミナーは、竹之内さんとともに、「コンパッション都市に向けて」、今、どのような動きがあり、それは私たちの日頃の営みとどのように関わっているのかについて考えていきたい。
ゲストの竹之内裕文さんからは以下のコメントをいただきました。
この度は、敬愛する島薗進先生の私塾にお招きいただき、とても光栄です。ただ、ふだんは朝方の生活を送っているため、夜のセッションには慣れていません。途中で寝てしまわないように、昼寝でもして臨もうと思っています。
「対話とコンパッションで死生を支え合うコミュニティを育てる、つなぐ、掘り下げる」――わたしの現在の活動は、この一文に集約されます。ここで「育てる」とは、地域づくり・コミュニティ形成をいいます。わたしはまちづくりアドバイザーとして、静岡県松崎町(西伊豆)をコンパッション都市に育てるお手伝いをしています。次に「つなぐ」とは、ネットワーキング・組織化をいいます。2023年度の日本ホスピス在宅ケア研究会(10月28〜29日、仙台市)の大会テーマは「コンパッション都市・コミュニティ」です。わたしはこの大会で、コンパッション都市・コミュニティ・フォーラム (CC-JP forum)を立ち上げる準備を進めています。最後に「掘り下げる」とは探究・研究をいいます。わたしは現在、コンパッション都市・コミュニティに関心を寄せる研究者・実践者たちとともに、分野横断的な研究プロジェクト「死生を支え合うコミュニティの思想的拠り所の究明――対話とコンパッションを糸口に」(科学研究費研究助成22K00009)を進めています。
このような背景のもと、当日はまず、アラン・ケレハーと彼が提唱するコンパッション都市・コミュニティとの出会いをふり返ります。次いで、ホスピス緩和ケアとの関係に照らして、コンパッション都市・コミュニティの位置を探ります。そのうえで「対話」との関係や訳語の問題にふれながら、「コンパッション」のダイナミズムに迫りましょう。最後に、松崎での試みやコンパッション都市・コミュニティの国際学会(PHPCI)の様子を紹介します。
私が主宰する「哲学塾」では、参加者は難解なテキストを事前に読んで、対話的探究に臨みます。この私塾にそのスタイルを持ち込むつもりはありませんが、多少でも事前に準備されておかれると、対話的探究が深まるかもしれません。『コンパッション都市 公衆衛生と終末期ケアの融合』を購入できない場合は、以下の論文を読まれてはどうでしょうか。島薗先生、そして参加者お一人おひとりとの対話を楽しみにしています。
竹之内裕文、死生を支え合うコミュニティの思想的拠り所―手がかりとしての「対話」と「コンパッション」、『現代宗教2022』
進行は、前シリーズ「死にゆく人と愛の関係を再構築する技術」に続き、医療・科学ライターの小島あゆみ氏が担当。医療現場を取材するなかで培った知見を基にグリーフケアを学ぶお手伝いをします。
初めて参加される方にも有意義な内容にしますので、奮ってご参加ください。
お申込みいただいた方が当日お時間に都合がつかなくなった場合には、動画アーカイブでオンデマンド視聴が可能です。(動画配信開始後1週間ご提供いたします)。
19:00 島薗氏によるトーク
19:40 竹之内氏によるトーク
20:30 休憩
20:40 ダイアログ/質疑応答
※プログラムの内容・順番・時間などは予告なく変更となる可能性がありますのでご了承ください。
Zoomミーティングを利用したオンラインイベントです。 お申込みいただいた方には、前日までに参加URLをメールにてお送りします。
チケットの購入期限は当日12月22日の18:00までとさせていただきます。
local knowledge 編集部(スタイル株式会社)
静岡大学未来社会デザイン機構副機構長、農学部・創造科学技術大学院教授。東北大学大学院文学研究科博士課程修了、博士(文学)。スウェーデン・ボロース大学客員教授、イギリス・グラスゴー大学訪問教授。静岡県松崎町まちづくりアドバイザー。死生学カフェ、哲学対話塾、風待ちカフェ主宰。専門は哲学、倫理学、死生学。著書に『死とともに生きることを学ぶ 死すべきものたちの哲学』(ポラーノ出版、2019年)、『農と食の新しい倫理』 (共編著、昭和堂、2018年)ほか。この10月に堀田聰子氏とともに監訳した『コンパッション都市 公衆衛生と終末期ケアの融合』(アラン・ケレハー著、慶應義塾大学出版会)を出版。
1948年東京都生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授。上智大学グリーフケア研究所所長を経て、大正大学教授。おもな研究領域は、近代日本宗教史、宗教理論、死生学。
『宗教学の名著30』(筑摩書房)、『宗教ってなんだろう?』(平凡社)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日選書)、『日本仏教の社会倫理』(岩波書店)など著書多数。
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